<h2 id="headingArticle3">成熟する日系企業の対豪投資、既存事業の成長に注力</h2>
<p>オーストラリア市場への新規参入に対する関心は引き続き高いものの、日系企業の対豪投資は、多くの投資家が既に現地で事業基盤やプロジェクトパイプラインを確立している段階にまで進展しています。一般的な成長戦略としては、他地域の事業を含む類似事業のボルトオン型買収や、関連するエコシステムやサプライチェーン内の隣接事業の買収が挙げられます。これにより、投資家は自らが商業・技術・オペレーション面で既に優位性を有するバリューチェーンへの参画をさらに深めています。<br />
<br />
</p>
<div class="rte-sky-light-background">
<div> </div>
<h3>事例研究1:日本生命、旧MLC生命保険の残余株式取得及びResolution Life買収によりオーストラリア事業を拡大し、ニュージーランド市場へ進出</h3>
<p><strong>日本生命</strong>は、「深化・拡大」戦略を体系的に推進してきました。2016年10月に<strong>MLC生命保険(旧MLC)</strong>の株式80%を取得し、残り20%はNational Australia Bankが継続保有していましたが、2025年10月にNABが保有する<strong>残り20%</strong>(約5億豪ドル)を取得し、旧MLCの完全子会社化を実現しました。これと並行して、既にレゾリューション・ライフの株式23%を保有していた日本生命は、残る約77%を約82億~84億米ドルで取得しました(グループ全体の企業価値評価額は約106億米ドル)。買収完了後、日本生命は旧<strong>MLC(商号をNippon Life Insurance Australia and New Zealandに変更)</strong>および<strong>Resolution Life Australasia</strong>を、グループ内の非事業持株会社傘下に正式に編入しました。MLCの完全子会社化とレゾリューション・ライフ買収を通じて、日本生命はオーストラリアにおけるオープン・クローズド両方の生命保険契約を保有する大規模かつ長期志向のオーナー・オペレーターとしての地位を確立し、統合後の事業全体にわたる運営面・資本管理面でのシナジーを創出しています。</p>
</div>
<p> </p>
<div class="rte-sky-light-background">
<h3>事例研究2:双日株式会社によるインフラ・建設セクターの買収</h3>
<p>双日株式会社による近年の一連の投資は、オーストラリアのインフラ・建設セクターにおける日系企業の投資として最も注目すべき事例です。2025年、双日は官民連携(PPP)の上流に位置する案件組成およびアセットマネジメント機能の獲得を目的として、<strong>Capella Capital</strong>を買収し、続いて<strong>UGL Transport</strong>の50%の株式を取得することにより、デリバリー・運営・メンテナンスの各分野へと事業領域を拡大しました。また、2023年に買収した<strong>Ellis Air</strong>に加えて、<strong>Climatech</strong>の株式70%を取得することでビルサービス・プラットフォームを拡充し、重要インフラ向け冷暖房空調(HVAC)システムを全国規模で提供する体制を構築しました。さらに、<strong>Next Green Group</strong>の過半数株式を取得し、HVAC、エネルギー小売およびビハインド・ザ・メーター・ソリューションを統合することで、このエコシステムは「完成」を迎えました。これら一連の買収を通じて、インフラ開発、交通・輸送オペレーション、HVAC専門サービス、分散型エネルギーを網羅する垂直統合型のワンストップサービス・プラットフォームが構築され、双日はオーストラリアにおける主要な高仕様かつエネルギー集約型資産のライフサイクル全体に参画し得る立場を確立しました。</p>
</div>
<p>オーストラリアの新たな市場やセクターに参入する日系投資家にとっても、収益の確実性とバリューチェーンリスクに対するナチュラルヘッジを理由に、プラットフォーム企業への戦略的出資が好まれる傾向にあります。</p>
<h2 id="headingArticle4">あらゆるセクターにおける合弁事業と「Japan Inc.」型の復活</h2>
<p>日本の対豪投資は従来、合弁事業モデルに沿ったものであり、日本企業が現地パートナーが運営するプロジェクトや企業に少数株主として出資する形をとってきました。しかし、過去20年間の日本企業のグローバル化推進に伴い、オーストラリアの対象企業に対する100%または過半数買収が増加傾向にあり、これにより日本企業は当該事業の利益をグループ決算に計上できるようになりました。</p>
<p>日本のコーポレートガバナンス基準と株主の期待が高まる中、日系投資家は投資対象における内部収益率(IRR)の目標達成がますます困難になっています。設備投資の資金を確保やパイプラインにおける新規投資に向け、資本をより効果的に活用する必要性から、合弁事業や共同投資への回帰傾向が強まっており、特に他の日系企業が参入し、資本拠出とリスクの両方を分担する形が増えています。</p>
<p>リスク分担構造の普及度と選好度は、主要な投資対象セクターによって異なります。</p>
<h3>A) 少数持分投資とオフテイク契約 - 鉄鉱石および重要鉱物</h3>
<p>日系投資家は、安定した高品質の供給を確保するため、オーストラリアの鉄鉱石および重要鉱物プロジェクトにおいて少数持分の取得を継続し、長期オフテイク権を組み合わせています。主な事例は以下のとおりです。</p>
<ul>
<li><strong>三井物産および伊藤忠商事によるBHP社所有のMinisters North鉄鉱床15%</strong>の共同取得、ならびに三井物産による<strong>Rhodes Ridge鉄鉱石プロジェクト</strong>における40%権益の段階的取得(VOCグループおよびAMBからの2回の個別買収により完了)。</li>
<li><strong>住友金属鉱山によるRio Tinto社所有のWinu銅</strong>・金プロジェクトにおける 30%権益の取得。</li>
<li><strong>JXアドバンストメタルズおよび丸紅がRZ Resources社と提携したCopi</strong>ミネラルサンド・レアアースプロジェクト。</li>
</ul>
<h3 id="headingArticle5">B) 日系の主要投資家による買収後、他の日系投資家へ段階的に持分を譲渡し、日系合弁会社を組成する仕組み – 不動産</h3>
<p>不動産セクター、とりわけ賃貸用新築開発(BTR)および優良商業用不動産の領域において、日系のリードスポンサーが会社またはユニット・トラストを通じて対象資産の支配的ないし基幹的持分を取得し、その後、当該会社、受託者/トラストの株式/ユニットを他の日系共同投資家に売却する事例が見られます。これにより、さらなるプロジェクトへの資本開放が可能となり、オーストラリア不動産市場への新規参入者の参入が促進されます<span>。</span></p>
<div class="rte-sky-light-background">
<h3>事例研究:住友林業およびCedar PacificのBTR合弁事業</h3>
<p><strong>住友林業</strong>は、合弁パートナーであるCedar Pacificとともに、ユニット・トラストを通じてブリスベンの<strong>50 Quay Street BTRプロジェクト</strong>における45%の持分を取得しました。その後、当該トラストの少数持分を<strong>芙蓉総合リース(アジア)</strong>および関電不動産開発に売却しています。Cedar Pacific Groupは、本プロジェクトに関する開発管理および投資管理サービスを提供しています。住友林業とCedar Pacificが今後取り組む他のBTRプロジェクトへの投資においても、同様のアプローチがとられています。</p>
</div>
<p>信頼性の高い現地の不動産デベロッパーやアセットマネージャーとの関係構築は、日系投資家がオーストラリアにおける不動産取引で成功を収めるうえでの重要な要素の一つとなっています。</p>
<h3>C) 少数持分投資と戦略的パートナーシップ・協業 – テクノロジー</h3>
<p>日系投資家が、投資先であるオーストラリアのテクノロジー企業に対し、資金提供と戦略的パートナーシップを組み合わせた投資を行うケースが増加しています。こうした投資は、日本市場をはじめとする海外市場へのアクセスを可能にするとともに、日本国内ニーズへの対応をも目的としています。</p>
<p>具体的には、株式取得に加え、販売権の付与、協業・共同開発プログラム、製造、市場投入(GTM)支援等が組み込まれるケースが多く見られます。主な事例は以下のとおりです。</p>
<ul>
<li><strong>メガチップスのMorse Micro</strong>へのリード投資は、Wi-Fi HaLowシリコンの生産・��売拡大に向けた複数年にわたるパートナーシップが含まれました。</li>
<li><span style="display: inline !important;">日本郵政キャピタルは、Applied EVへの出資に際し、持続可能な次世代モビリティ・物流ソリューションの共同構築を目的とした戦略的パートナーシップが含まれました。</span></li>
<li><span style="display: inline !important;"></span><strong>ソフトバンクロボティクスのiCetana</strong><span style="display: inline !important;">への出資には、日本における販売権および戦略的パートナーシップ契約が含まれました。これは、iCetanaとマクニカの既存提携関係を補完するものです。</span></li>
<li><span style="display: inline !important;"></span><strong>三菱電機モビリティは、Seeing Machines</strong><span style="display: inline !important;">への投資に続き、三菱電機オートモーティブ・アメリカを通じた紹介契約を締結し、ドライバー安全ソリューションを米州全域に展開しています。</span></li>
<li><span style="display: inline !important;"></span><strong>ヤマハの2020年におけるThe Yield</strong><span style="display: inline !important;">への初期投資は、2025年における「</span><strong>Yamaha Agriculture</strong><span style="display: inline !important;">」の設立およびThe Yieldの買収へと発展し、オーストラリアの微気候分析とロボティクスを統合した新たなグローバル事業の創出に至りました。</span></li>
</ul>
<p>加えて、日系企業によるオーストラリアのテクノロジー分野への投資は、「カタマリ」効果を生み出しており、オーストラリアのテクノロジー業界の形成にますます影響を与えています。初期に参入した日系企業の投資実績が呼び水となり、後続のラウンドにおいて複数の日本企業による追加投資を誘引する構造が形成されています。</p>
<p>具体例としては、スズキによる初期支援から日本郵政キャピタルによる戦略的投資へと発展した<strong>Applied EV、マクニカ</strong>との関係強化を目的として<strong>ソフトバンクロボティクス</strong>との新たな出資・販売契約を締結した<strong>iCetana</strong>、さらに気候テック分野のイノベーション企業群として、<strong>MCi Carbon(みずほ銀行、伊藤忠商事、三井住友信託銀行</strong>による初期投資に続き、三菱宇部セメント株式会社による参画)、<strong>AI Carbon</strong>(<strong>三菱商事</strong>による初期出資に続き、<strong>大阪ガス</strong>が参画)、<strong>Samsara Eco</strong>(兼松および<strong>Hitachi Ventures</strong>が出資)などが挙げられます。</p>
<h2 id="headingArticle5">2026年の展望</h2>
<p>両国間の長年にわたる信頼関係を支えに、日系企業からのインバウンド案件に関する問い合わせは引き続き堅調な水準を維持しています。</p>
<p>M&Aは、新規事業の立ち上げやグリーンフィールドプロジェクトではなく、事業変革をはるかに迅速に実現できる手段として、日系投資家にとって依然として魅力的な選択肢です。AIが誰もが予想していたペースをはるかに上回る速さで普及し、世界が急速に変容している現在の環境において、このスピードの優位性はとりわけ重要な意味を持ちます。地政学的な不確実性が続く中、オーストラリアが日本にとって引き続き好まれる投資先であることは当然のことでしょう。</p>
<p>こうした状況を踏まえ、合弁事業によるものを含む日系企業によるオーストラリアでのインバウンドM&A活動において注目すべき主要セクターは、テクノロジー、エネルギー転換関連事業・資産、インフラ、不動産、および鉱業・資源が挙げられます。</p>
<p>統合およびエコシステム構築の傾向は今後も継続すると見込まれ、買収または新規構築されたプラットフォームは、オーストラリア国内のみならず、国際的な成長機会の創出にも活用されるでしょう。</p>
<p>投資の流れは依然としてオーストラリア向けが圧倒的な割合を占めていますが、オーストラリア企業が日本への海外投資の潮流に乗ることができるかどうかも注目したいところです。オーストラリアの公開市場における傾向と同様に、日本の上場企業もガバナンスやコンプライアンスに関する要件による負担が増大しており、その結果、非公開化案件が相次いでいます。</p>
<p>双方向の投資は日豪関係をさらに強化し、オーストラリア企業が日本に資本と専門知識を提供すると同時に、日本とのビジネスおよび日本国内での事業展開能力を構築することを可能にするでしょう。</p>
<p><strong>Authors: </strong>小川 夏子(パートナー); ショジーブ・アラム(シニア・アソシエイト);フィービー・ファン(アソシエイト);ジャネット・チーン(アソシエイト)</p>
<h2 id="headingArticle6">More M&A insights</h2>
<ul>
<li><a href="https://www.ashurst.com/en/insights/hitting-new-peaks-recent-developments-in-schemes-of-arrangement/" target="_self">Hitting new peaks: recent developments in schemes of arrangement</a></li>
<li><a href="https://www.ashurst.com/en/insights/tick-tock-the-price-of-delay-escalating-ticking-fees/" target="_self">Tick tock: the price of delay – escalating ticking fees</a></li>
<li><a href="https://www.ashurst.com/en/insights/spotlight-on-nathan-deveson-ashursts-newest-tax-guru/" target="_self">Spotlight on Nathan Deveson – Ashurst's newest tax guru</a></li>
</ul>
<p><span style="display: inline !important;"><a href="https://www.ashurst.com/en/insights/ahead-of-the-deal-australian-m-and-a-briefing/" class="btn-primary" target="_self">View our Ahead of the Deal page for more articles</a></span></p>
成熟する日系企業の対豪投資、既存事業の成長に注力
オーストラリア市場への新規参入に対する関心は引き続き高いものの、日系企業の対豪投資は、多くの投資家が既に現地で事業基盤やプロジェクトパイプラインを確立している段階にまで進展しています。一般的な成長戦略としては、他地域の事業を含む類似事業のボルトオン型買収や、関連するエコシステムやサプライチェーン内の隣接事業の買収が挙げられます。これにより、投資家は自らが商業・技術・オペレーション面で既に優位性を有するバリューチェーンへの参画をさらに深めています。
事例研究1:日本生命、旧MLC生命保険の残余株式取得及びResolution Life買収によりオーストラリア事業を拡大し、ニュージーランド市場へ進出
日本生命は、「深化・拡大」戦略を体系的に推進してきました。2016年10月にMLC生命保険(旧MLC)の株式80%を取得し、残り20%はNational Australia Bankが継続保有していましたが、2025年10月にNABが保有する残り20%(約5億豪ドル)を取得し、旧MLCの完全子会社化を実現しました。これと並行して、既にレゾリューション・ライフの株式23%を保有していた日本生命は、残る約77%を約82億~84億米ドルで取得しました(グループ全体の企業価値評価額は約106億米ドル)。買収完了後、日本生命は旧MLC(商号をNippon Life Insurance Australia and New Zealandに変更)およびResolution Life Australasiaを、グループ内の非事業持株会社傘下に正式に編入しました。MLCの完全子会社化とレゾリューション・ライフ買収を通じて、日本生命はオーストラリアにおけるオープン・クローズド両方の生命保険契約を保有する大規模かつ長期志向のオーナー・オペレーターとしての地位を確立し、統合後の事業全体にわたる運営面・資本管理面でのシナジーを創出しています。
事例研究2:双日株式会社によるインフラ・建設セクターの買収
双日株式会社による近年の一連の投資は、オーストラリアのインフラ・建設セクターにおける日系企業の投資として最も注目すべき事例です。2025年、双日は官民連携(PPP)の上流に位置する案件組成およびアセットマネジメント機能の獲得を目的として、Capella Capitalを買収し、続いてUGL Transportの50%の株式を取得することにより、デリバリー・運営・メンテナンスの各分野へと事業領域を拡大しました。また、2023年に買収したEllis Airに加えて、Climatechの株式70%を取得することでビルサービス・プラットフォームを拡充し、重要インフラ向け冷暖房空調(HVAC)システムを全国規模で提供する体制を構築しました。さらに、Next Green Groupの過半数株式を取得し、HVAC、エネルギー小売およびビハインド・ザ・メーター・ソリューションを統合することで、このエコシステムは「完成」を迎えました。これら一連の買収を通じて、インフラ開発、交通・輸送オペレーション、HVAC専門サービス、分散型エネルギーを網羅する垂直統合型のワンストップサービス・プラットフォームが構築され、双日はオーストラリアにおける主要な高仕様かつエネルギー集約型資産のライフサイクル全体に参画し得る立場を確立しました。
オーストラリアの新たな市場やセクターに参入する日系投資家にとっても、収益の確実性とバリューチェーンリスクに対するナチュラルヘッジを理由に、プラットフォーム企業への戦略的出資が好まれる傾向にあります。
あらゆるセクターにおける合弁事業と「Japan Inc.」型の復活
日本の対豪投資は従来、合弁事業モデルに沿ったものであり、日本企業が現地パートナーが運営するプロジェクトや企業に少数株主として出資する形をとってきました。しかし、過去20年間の日本企業のグローバル化推進に伴い、オーストラリアの対象企業に対する100%または過半数買収が増加傾向にあり、これにより日本企業は当該事業の利益をグループ決算に計上できるようになりました。
日本のコーポレートガバナンス基準と株主の期待が高まる中、日系投資家は投資対象における内部収益率(IRR)の目標達成がますます困難になっています。設備投資の資金を確保やパイプラインにおける新規投資に向け、資本をより効果的に活用する必要性から、合弁事業や共同投資への回帰傾向が強まっており、特に他の日系企業が参入し、資本拠出とリスクの両方を分担する形が増えています。
リスク分担構造の普及度と選好度は、主要な投資対象セクターによって異なります。
A) 少数持分投資とオフテイク契約 - 鉄鉱石および重要鉱物
日系投資家は、安定した高品質の供給を確保するため、オーストラリアの鉄鉱石および重要鉱物プロジェクトにおいて少数持分の取得を継続し、長期オフテイク権を組み合わせています。主な事例は以下のとおりです。
- 三井物産および伊藤忠商事によるBHP社所有のMinisters North鉄鉱床15%の共同取得、ならびに三井物産によるRhodes Ridge鉄鉱石プロジェクトにおける40%権益の段階的取得(VOCグループおよびAMBからの2回の個別買収により完了)。
- 住友金属鉱山によるRio Tinto社所有のWinu銅・金プロジェクトにおける 30%権益の取得。
- JXアドバンストメタルズおよび丸紅がRZ Resources社と提携したCopiミネラルサンド・レアアースプロジェクト。
B) 日系の主要投資家による買収後、他の日系投資家へ段階的に持分を譲渡し、日系合弁会社を組成する仕組み – 不動産
不動産セクター、とりわけ賃貸用新築開発(BTR)および優良商業用不動産の領域において、日系のリードスポンサーが会社またはユニット・トラストを通じて対象資産の支配的ないし基幹的持分を取得し、その後、当該会社、受託者/トラストの株式/ユニットを他の日系共同投資家に売却する事例が見られます。これにより、さらなるプロジェクトへの資本開放が可能となり、オーストラリア不動産市場への新規参入者の参入が促進されます。
事例研究:住友林業およびCedar PacificのBTR合弁事業
住友林業は、合弁パートナーであるCedar Pacificとともに、ユニット・トラストを通じてブリスベンの50 Quay Street BTRプロジェクトにおける45%の持分を取得しました。その後、当該トラストの少数持分を芙蓉総合リース(アジア)および関電不動産開発に売却しています。Cedar Pacific Groupは、本プロジェクトに関する開発管理および投資管理サービスを提供しています。住友林業とCedar Pacificが今後取り組む他のBTRプロジェクトへの投資においても、同様のアプローチがとられています。
信頼性の高い現地の不動産デベロッパーやアセットマネージャーとの関係構築は、日系投資家がオーストラリアにおける不動産取引で成功を収めるうえでの重要な要素の一つとなっています。
C) 少数持分投資と戦略的パートナーシップ・協業 – テクノロジー
日系投資家が、投資先であるオーストラリアのテクノロジー企業に対し、資金提供と戦略的パートナーシップを組み合わせた投資を行うケースが増加しています。こうした投資は、日本市場をはじめとする海外市場へのアクセスを可能にするとともに、日本国内ニーズへの対応をも目的としています。
具体的には、株式取得に加え、販売権の付与、協業・共同開発プログラム、製造、市場投入(GTM)支援等が組み込まれるケースが多く見られます。主な事例は以下のとおりです。
- メガチップスのMorse Microへのリード投資は、Wi-Fi HaLowシリコンの生産・��売拡大に向けた複数年にわたるパートナーシップが含まれました。
- 日本郵政キャピタルは、Applied EVへの出資に際し、持続可能な次世代モビリティ・物流ソリューションの共同構築を目的とした戦略的パートナーシップが含まれました。
- ソフトバンクロボティクスのiCetanaへの出資には、日本における販売権および戦略的パートナーシップ契約が含まれました。これは、iCetanaとマクニカの既存提携関係を補完するものです。
- 三菱電機モビリティは、Seeing Machinesへの投資に続き、三菱電機オートモーティブ・アメリカを通じた紹介契約を締結し、ドライバー安全ソリューションを米州全域に展開しています。
- ヤマハの2020年におけるThe Yieldへの初期投資は、2025年における「Yamaha Agriculture」の設立およびThe Yieldの買収へと発展し、オーストラリアの微気候分析とロボティクスを統合した新たなグローバル事業の創出に至りました。
加えて、日系企業によるオーストラリアのテクノロジー分野への投資は、「カタマリ」効果を生み出しており、オーストラリアのテクノロジー業界の形成にますます影響を与えています。初期に参入した日系企業の投資実績が呼び水となり、後続のラウンドにおいて複数の日本企業による追加投資を誘引する構造が形成されています。
具体例としては、スズキによる初期支援から日本郵政キャピタルによる戦略的投資へと発展したApplied EV、マクニカとの関係強化を目的としてソフトバンクロボティクスとの新たな出資・販売契約を締結したiCetana、さらに気候テック分野のイノベーション企業群として、MCi Carbon(みずほ銀行、伊藤忠商事、三井住友信託銀行による初期投資に続き、三菱宇部セメント株式会社による参画)、AI Carbon(三菱商事による初期出資に続き、大阪ガスが参画)、Samsara Eco(兼松およびHitachi Venturesが出資)などが挙げられます。
2026年の展望
両国間の長年にわたる信頼関係を支えに、日系企業からのインバウンド案件に関する問い合わせは引き続き堅調な水準を維持しています。
M&Aは、新規事業の立ち上げやグリーンフィールドプロジェクトではなく、事業変革をはるかに迅速に実現できる手段として、日系投資家にとって依然として魅力的な選択肢です。AIが誰もが予想していたペースをはるかに上回る速さで普及し、世界が急速に変容している現在の環境において、このスピードの優位性はとりわけ重要な意味を持ちます。地政学的な不確実性が続く中、オーストラリアが日本にとって引き続き好まれる投資先であることは当然のことでしょう。
こうした状況を踏まえ、合弁事業によるものを含む日系企業によるオーストラリアでのインバウンドM&A活動において注目すべき主要セクターは、テクノロジー、エネルギー転換関連事業・資産、インフラ、不動産、および鉱業・資源が挙げられます。
統合およびエコシステム構築の傾向は今後も継続すると見込まれ、買収または新規構築されたプラットフォームは、オーストラリア国内のみならず、国際的な成長機会の創出にも活用されるでしょう。
投資の流れは依然としてオーストラリア向けが圧倒的な割合を占めていますが、オーストラリア企業が日本への海外投資の潮流に乗ることができるかどうかも注目したいところです。オーストラリアの公開市場における傾向と同様に、日本の上場企業もガバナンスやコンプライアンスに関する要件による負担が増大しており、その結果、非公開化案件が相次いでいます。
双方向の投資は日豪関係をさらに強化し、オーストラリア企業が日本に資本と専門知識を提供すると同時に、日本とのビジネスおよび日本国内での事業展開能力を構築することを可能にするでしょう。
Authors: 小川 夏子(パートナー); ショジーブ・アラム(シニア・アソシエイト);フィービー・ファン(アソシエイト);ジャネット・チーン(アソシエイト)
More M&A insights
View our Ahead of the Deal page for more articles